■住民側の意識  

 企業庁が住民の主体性を重視したのに対し、千葉市は上意下達の姿勢が目立つ。提案の公開前は担当課が用意した案を示すのみで協議をする姿勢ではなく、公開された提案は地域で受けられるかどうかを検討する事実上の最終案と言えるものだった。

 一方、住民側の姿勢の違いも大きい。
 コア設立時は民主的に公開の会議を行い、議事録を公開した。住民はコンサルそこのけでニーズ調査を行い、関心のあるものが自ら集まって分科会を立ち上げ研究成果を発表したり、企業庁や市・建築家らとディスカッションを繰り返したり、常識にとらわれないピアノ選定を行ったり購入のためのチャリティコンサートを運営するなど全てを住民パワーでこなしてきた。

 それに対し今回は、住民に民主的に会議を運営し、問題を捉え、自ら問題解決しようとする姿勢が希薄に見える。
 予告されていない会議を限られた者だけで行い決定したり、会議外で関係者だけで方針を決定し会議は形だけになっていたりし、議論を避ける姿勢が強い。議事録も公開していない。いっぽうで事実関係を確認しないまま物事を進めたり、スケジュールをもとにしたロードマップもつくらず、具体的なことの検討をしない。具体的な想定もないままなので、自分たちがやろうとしていることについて何をしなければならないのかという確認すら行わない。当然責任の自覚も不十分。とても多くの賛同を得て意義のあることを行っていけるようには見えない。多くの人の参加を求めているが、参加する人が提案し、任せて実効を上げるような形ではなく、司会進行する呼びかけ人が全てを決めているように見える。このような進め方に参加者からは疑問の声が聞こえている。コア設立時との差異は大きい。

 住民側の組織として、「公民館の運営を考える会(以降、考える会)」と、「幕張ベイタウン協議会(以降、協議会)」、協議会の下部組織で外部との契約を行うための法人「一般社団法人まち育てサポート」が存在し、今回の市の提案でも住民側の契約対象となっている。なお、協議会のメンバーの一部が『考える会』へ参加している。
 市から投げかけられた提案に対する思惑は様々である。

 明らかであることは、勤務に自ら手を上げて市の提案を受けようとする者が皆無であることである。

 「考える会」は、発足当初、市の提案を「検討しない」としていた。市の提案とは別に独自の活動を行い市と交渉するとしていた。しかし、この機を逃せば住民が公民館運営に関わるチャンスを逸すると考えた「協議会」が市の提案の条件の確認と交渉を行うことを明らかにしたところ、「考える会」呼びかけ人らは提案を受けることを前提に据え、『勤務するものを「考える会(住民委員会)」の指揮命令下に置く』と言い、ベイタウンニュースで『公民館講座運営の運営をサークル等でボランティアにて行い、講座運営予算を「考える会」の財源にする』という方針を明らかにし、「考える会」として公民館講座を行えるサークルのピックアップ作業を始めた。

 ただ、こうした方針やそもそもの市の提案の中身について「考える会」では議場で検討したことがなく、どれだけの人が市の提案を理解し、この方針に同意しているのかは明らかではない。記事では財源の使途は「ホールの維持管理」としてはいるものの、議論されたことも確認されたこともなく、使途の決め方や監視のしくみについても明らかではない。

 「協議会」は、市の提案のうち不明確な部分(業務の範囲、予算)を確認し、条件面の交渉をすること、法人格が要求されているため同会の『一般社団法人まち育てサポート』市と契約を行う立場にあることを『考える会』議場で表明し、了承を得ている。
 協議会の中心メンバーの一人は「人事・会計事務の全てを協議会で行う」としているが、正式な表明ではなく、どこまでの実務を担うのか、そもそも管理契約も派遣事業も経験のない素人集団とも言える協議会に実務を担えるのかが不明な状態である。
 もちろん、協議会のメンバーが勤務を行うこともない。あくまで第三者を雇用することを前提としているが、人事や会計、派遣業務管理のスペシャリストを雇う人件費は全くない。
 内部の方針として、予算不足で最低賃金法をクリアできない、契約内容が法律に触れることになる等の場合は提案を受けないとしているが、住民側がクリアすべき課題は全く提示していない。

 もともと「協議会」には公民館運営の実務能力がなく、契約を受けて住民団体に丸投げすることを想定していた(その理由は後述)。しかし、住民活動のサポートを行うことを表明したことで役割が変わってきたように見える。「考える会」を上位としてサポートし、「考える会」がやりたいとしていること以外は「協議会」にて引き受ける方針とするようだ。そのため、関係者同士では「協議会」が勤務者等を雇用・管理して委託業務についての全責任を負い、全体の指揮命令権と講座企画運営権限を「考える会」に与えることで基本合意しているらしい。しかし明示されたものはなく詳細も検討されていないため、業務範囲や予算配分について『考える会』と『協議会』の間で争う要因になりかねない。


■勤務をするものには裁量権を与えないとする住民側組織  

 業務委託とは本来、その業務に通じたエキスパートに依頼することで、優れた結果を得るために行われる。
 業務遂行のために派遣されるものは当然エキスパートであることが要求される。

 しかし低廉な人件費で雇ったものを派遣し、勤務をするものには裁量権を与えないことを「考える会」呼びかけ人は明言している。勤務するものは「考える会」が指示したことのみを行い、何かあれば「考える会」の会議の招集を求め、判断を仰ぐ必要があると言うことである。
 これは、勤務するものが地域の意見を反映して動き、独断を避けるためではあるが、特定のものに権限が集中し「公民館のボス化」することを怖れるためでもあるという。そのために勤務をするものを短期で交替させるとも言う。

 しかし、低廉な人件費では主事業務をこなせる人材が派遣できるとは限らず、さらに裁量権もないため現場での対応を求められても判断できず、結論が出るまでに時間がかかる。非効率的で、公民館利用者の利便性を考えると、マイナスになる可能性がある。勤務する者のモチベーションも上がりにくい。将来公民館の運営権を得たとしても、勤務をするものに裁量権を与えず非常設の住民委員会(考える会)で全てを判断するというやり方では、委員会の開催が遅れがちで対応の遅れが必至であるし、市への問い合わせをしないと判断できないことが多いと考えられるため、二重管理の弊害が一般の指定管理者制度による業者管理以上に生じる可能性がある。

 また、「考える会」が充分に民主的に運営される必要があるが、それをどう担保するかが課題であろう。

 他市では、住民から主事希望者を募って雇用し公民館運営に関わらせている例があるが、責任の所在が明らかで、担当者に可能な限り任せ、やりたいものがやりたいことをやることで公民館活動の充実が実現できているようだ。この方式では市が直接雇用するため、偽装委託問題は発生しない。
 一方、『千葉市−考える会−協議会』方式では公民館利用者が実権を持ち、施設利用者を想定して「施設維持のためのボランティア」を求められるため、外部の人間が活動に加わるモチベーションを持ちにくく、閉鎖性をますます強くする可能性がある。

 「考える会」「協議会」共に自らが勤務に当たるのではなく第三者の雇用を前提にして委託を受けようとしている。住民自ら勤務をせずに第三者を勤務させ指揮命令下におくことで【市が用意した住民参画の枠組み】に乗っかろうとしているが、このような丸投げが「住民参画」と言えるのかどうかについては双方とも議論をしていない。

 市側は住民が勤務することによって、地域住民が公民館に親しみをおぼえたり、地域の問題を捉えやすくなったり、公民館運営に住民の目が加わることで運営を改善しやすくなると期待している。同時に所轄課の課題である施設の転用策(空き部屋を利用した子どもの居場所確保など)にも関与させることを想定している。しかもこれまでの予算の付け替え(嘱託主事給与程度)のみでこれを行えると考えている。
 一方の住民側は「講座企画運営に関わりたい」や「将来住民が運営に関われる範囲を広げてもらえるかも知れない期待」が市の提案を受けたい理由となっている。雇用する第三者を勤務させ指揮命令することによって住民側の思惑を反映させる手段にすると言う。また、呼びかけ人によれば同じ者を長期に雇用しないことで特定のものが「公民館の顔」になることを避けたいともしている。市への低賃金の労働者提供を、講座企画運営権や将来の公民館運営権を得るための取引材料のように扱っているようにもみえる。

 勤務について市の思惑と住民の思惑が大きくすれ違っている危惧がある。


■奇妙な「考える会」  

 「考える会」の設立及びあり方は少々奇妙に見える。
 「考える会」は、表向きは市の説明会に合わせて設立し、市の提案を検討するために人が集まった体裁を取りながら、実態は異なっている。
 工程表に基づき煮詰めてきた市の提案の説明会を「これから市が住民と一緒にコアの運営を考えていく場」と、あたかも提案自体は市と住民の協議のきっかけづくりのための単なる一案に過ぎないような印象を与える広報したり、「コアはあと10年もたない。このことを住民で集まって考える場」と本来と異なる目的で関係者を説明会に動員している。
 外向きには市の説明会としてのみ広報していながら、説明会当日に予告されていなかった会議を行って「考える会」をたちあげ、他の理由で動員した住民を中心にこの会を市と交渉を行う住民代表組織と宣言し「市の提案の検討をしない」との意思決定を行っている。一般住民はもちろんコアに関わっていても声をかけられていない者が知らぬところでのことであり、この秘密会で決定する姿勢は反発を受けている。
 なお、考える会は「開かれた会」を自称しているが、市の提案資料は説明会から2ヶ月半が経過しても公開されていない(やむなく、本HPが一般公開するに至った)。また「考える会」の議事録は2015/6/4現在公開されていない。
 呼びかけ人の基本的な考え方は、公民館利用者をボランティアに参加させ、講座企画運営費を浮かせてコントロールできる財源をもつとするもので、これを施設の維持管理に充てるとしている。市直営を参考にすると、15〜20万円程度の財源を持つことになる。その使途や規定については明確には話し合われぬままだ。

 サークル関係者は呼びかけ人から維持管理のことを話し合うと聞き参加したものの、実際には以前から協議されていた千葉市の提案を基本に話が進み、呼びかけ人らが決めた方向性に沿って議事進行し話し合いの余地がないことに戸惑っている。

 「考える会」の呼びかけ人らは街の有力者と目される者で、将来公民館の運営を行っていきたいとしていることもあり、街の中の人間関係への影響を怖れたり、サークルとしては不利に扱われることを怖れて声をかけられた者が参加している面も否めない。

 公民館という施設自体、登録サークルの利用を中心としていることから閉鎖性を指摘されることが多いが、コアも開館から13年が経過し、当地域も有力者の意思で左右される普通の地域になり、コアも当初目指していた開かれた施設からすっかり普通の公民館施設になってしまったようにも見える。

■協議会の事情   
 

 「協議会」が市の提案を受けたいとするのには事情がある。
 協議会はベイタウンの他の地域より高規格な設備の維持管理を目的に設立された。将来的には管理会社を設立したいとしている。この活動費を得るためにベイタウン内の駐車場の管理委託を得たいとしているが、施設管理実績のない協議会では相手にされないおそれがある。そこで、公民館の管理委託を受け住民団体に再委託して実績にしたいとしていた。当初は指定管理制度で全体の管理契約を結び、収入を得ることも想定していたが、大幅に予算額が縮小し、受けても収入どころか赤字になりかねなくなっている。
 それでも受けたいとしているのは、実績作りの他、協議会の設立目的が住民の活動のサポートであるから「考える会」のサポートをしようという主張があること、将来の委託範囲の拡大期待(=収入につながる)があること、範囲の拡大で公民館の住民運営が可能になるかも知れないと言う期待(=住民自治につながる)があることがあげられる。
 ただ期待はあくまで期待でしかなく、約束されたものではないため全く取引としては成立していない。
 しかし、
・委託開始までに勤務体制が築けなかったり、実務能力のない者を勤務させ業務に穴を空ける事態になったりして事業が失敗した時、住民は市の信頼を失い、公民館運営に関わる機会を失うことになるかも知れないこと。
・そもそも参画したいという住民自身ではなく第三者を雇用し指揮命令下におくことによって市の要求を満たそうとしていること。
・「考える会」は本来の「ボランティア」とは異なる形でサークル等を動員しようとしていること。
これらの点について全く議論しないまま、期待が現実になることを前提として盲目的に走っているようにすら見える。

 市の提案では予算が厳しく、本件の契約から活動費を得ようとも考えていた協議会は、主事相当業務の責任を負う人材を最低賃金付近で雇用せざるを得ない可能性が高い。下限の200万円では講座運営費と1名分の最低賃金を確保すると人事管理や会計管理などの事務コストはほとんど捻出できない。また、上限の300万円で勤務者の時給がクリアできても事務関係のコストが支払えるかどうか、事務負担を具体的に検討しないと分からない。派遣側の法人の責任として問題が生じた時にいつでも対応できる体制が必要であり、本来派遣している者の勤務時間中には法人も確実に人をはり付ける必要がある。
 委託予算が極めて限られているため、交通費は支給できず、雇用者の義務である社会保険や雇用保険を免れる一人当たり週20時間未満となる見込み。また、勤務に当たるものは厚生年金等に加入する配偶者を持つことを前提にして、配偶者控除、国民年金の第三号保険者枠内の年間103万円未満の収入を想定することとなる。

 一方で、住民参画といいながら委託を受けようとする住民自身は勤務せず、第三者を雇用し、「考える会」が指揮命令下に置くことを想定している。しかし低い時給で、市の直接雇用と違い信用力の低い一般社団法人名での求人に応募があるかどうかも分からない。

■考える会参加者の人員構成   

 考える会の参加メンバーを見てみよう。当初は20名を超える参加者がいたが、最近はほとんど参加者がいない。

 直近2回の議事録からピックアップしてみると、

8/6 参加メンバー
Y氏、O氏、KB氏、I氏、A氏、M氏

10/6 参加メンバー
Y氏、O氏、KS氏、M氏

M氏は考える会の呼びかけ人でありベイタウンニュース発行人
Y氏、O氏、KB氏、I氏は協議会のメンバー
KS氏はM氏が主催する合唱団の団員でM氏の声がけで参加。
A氏はクラッシック演奏系サークルの代表で、M氏の声がけで参加。

 2回あわせて重複を除いて7名だが、そのうち4名は協議会(社団法人まち育てサポート)メンバーで、原則考える会の討議内容には関わっていない。市との交渉は法人格を必要とすることになったため、交渉とその報告が主な役割だ。
 つまり、実質わずか3名のみで検討をしていることになる。
 公民館運営には多くの勤務人材を必要とするにもかかわらず、このメンバーの誰も勤務をするつもりがない。
 議事録を見る限り、あきらかにM氏主導で話が進んでいる。提案はほとんどM氏による。M氏が司会進行し、M氏がまとめる。

 なんの代表性もないごく一部の彼らが、議事録の公表すらせず、事実と異なる記事で広報を行っている。この場に出ていない誰の声も代表していない。
 これが事業体制の検討を一切しないまま、第三者に低賃金ないしボランティア労働をさせることを前提に公民館住民参画事業を引き受けると明言していた「公民館の運営を考える会」の実体である。