
筆者がコアの設計に当たる建築家として高谷先生と初対面したとき、少々面食らった。建築家にごく堅いイメージを持っていたからだ。ところが現れた男性は驚くほど優しく穏やかで、決して上からものを言わない。それは右のお写真の印象としても読み取れるだろう。何度か会議を重ねる中で、我々はとても親しく接していただいた。高谷先生は知り合いの音響設計に入ってもらうと言われたのであるが、それがあのサントリーホール他、国内外の数多くのコンサートホールを手掛けてきた永田音響設計だというのだからおどろいた。この先生はすごいネットワークを持たれている。その後、永田音響設計の福地智子氏、菰田基生氏を交えて会議の席に着いたことを忘れない。ああ、今すごいことをしようとしている場にいるのだなあとひしひしと感じていた。と言いながらも私は年少の恐いもの知らず?で先生方にじゃれついていたのだから恐ろしい。
高谷先生は住民の意見をよくお聴きになり、なるべくそれを活かすべくいろいろな工夫をしてくださった。当初は長方形のボックスシュー型だったが、それを六角形のミニアリーナ型に変更した案を提示された。そこで一気に音楽ホールらしくなり、テンションが上がっていった。
厳しい予算の中でも残響に優れたホールでありながら会議にも使えるようにすべく、吸音カーテンを壁から引きだし簡単に設置できるような工夫をしていただりもした。
住民ニーズと公民館講堂という位置づけからくる多用途性はなるべく崩さず、生音重視という魂はきっちり守り抜く設計には本当にご苦労されたに違いない。
コア全体でも様々な工夫がなされている。中庭には音響対応の野外ステージも用意してくださったのだが、こちらは住民が生かすことができぬままになってしまっている。図書館の増床スペースも用意していただいていたのだが、行政的制約でこれも生かすことができないまま。さらに公民館の運営上の制約で、屋上スペースもほとんど活かされないまま。果てには時間が経過し傷んだウッドデッキは撤去されてしまった。せっかくのすてきなアトリウムも行政の方針で学習スペースにされてしまった。何か色々と申し訳ない思いでいる。
2025年に高谷先生は幕張ベイタウン・コアを訪れていた。その思いをブログに綴られていて、日本語では一般向きに、英語ではスタディツアーに訪れる海外の方向きに異なるメッセージを書かれていた。いずれも、高谷先生のコアへの思い入れが感じられるものだった。
更に、数年前、コア研の内田が業界の仕事で高谷先生にお会いした際、我々メンバーの名を上げて「どうされていますか」と尋ねられたそうだ。感激するようなエピソードである。
音楽ホールだけでも、千葉市が公民館として引き取ったための多くの制約がある状況ではあるが、それでもこの素敵な空間を作っていただいたことが、住民にとってはかけがえのないものであり続けている。
〔文責 隅山〕
高谷先生からのメッセージ
幕張ベイタウン・コアへの思い
私は、これまで多くの公共建築を設計する機会に恵まれました。それぞれの建築にはそれぞれの思い出があり、その思い出し方も様々です。しかし、この幕張ベイタウン・コアほど、設計を進めるプロセスで出会った多くのかたがたの、顔やお声が浮かび上がってくる建物はありません。
設計者としての最初の仕事は住民の方々との対話集会への出席でした。普通ですと行政から出席してくださいとの通知が来ますが、まったく違い驚きました。主催は「コミュニティ・コア研究会」で、行政も私たち設計者と同様に招かれた立場でした。私にとっては、「この建物とりわけその中のホールは、実際にお使いになる一人ひとりと本気で向き合って、一緒に作り上げていくものになる」ことをある意味で「覚悟」する日となりました。そこから設計がスタートしました。
その日からすでに四半世紀の時間が流れました。オープン以来、コアホールが、素晴らしいコンサートや日々の活動に利用されつづけているのは、まさに、言葉の綾ではなく本当の意味で、「住民の方々の思いが結晶化したホール空間」が生まれたからだと思います。ピアノのファツィオリはその象徴です。
私自身は、訪れる機会が少なく申し訳なく思っています。最後の訪問が、昨年秋ニューヨークからの視察団を案内した時です。ちょうど合唱団の練習中でしたが、快く見学させてくださいました。見学者のひとり(ニューヨークのリンカーンセンターに関係する方でした)が「音響設計はどなたですか」というので、永田穂さんチームだと伝えたら、よくご存じでした。私にとっても誇らしい瞬間でした。
今度はファツィオリを含む演奏会を体験したいと思います。私が大切にしたいつながり・・・それが幕張ベイタウン・コアの空間であり、作り育ててこられた方々です。
高谷時彦


当時の会議呼びかけポスター。使われている図面は左が当初案のシューボックス型、右がアリーナ型。
図面があるのだからポスターに使えば盛り上がるだろうと思い、こんなデザインにしたのだった〔隅山〕
関連リンク
幕張ベイタウン・コア全体の設計を担当
コア音楽ホールの音響設計を担当